コルドロンを知っていますか?
巷ではディズニーの黒歴史などと不名誉な評価もされていますが、はっきりと言いましょう。
それは過小評価です。
確かに脚本に欠陥があることは事実です。しかし、それ以上に価値あることは、新たなアニメーション表現へのチャレンジをしている意欲作であるという点です。
とはいえ、ディズニー初のPG指定された作品でもありますのでお子様が観る場合は、注意が必要です。
ちなみに、この映画はアメリカでは失敗したにもかかわらず、日本では人気があり、ゼルダの伝説シリーズの生みの親である宮本茂がゲームの要素の多くをこの映画に基づいて作ったという都市伝説があります。
「コルドロン」はディズニープラスで見放題配信中。
あらすじ
騎士になることを夢見る豚飼いの少年ターラン。
ターランは師匠のドルベンから、予知能力を持つブタのヘン・ウェンを魔王ホーンド・キングから守るように命じられる。ホーンド・キングはヘン・ウェンの力で、不死身の軍隊を作り出せる魔法の大壺「ブラック・コルドロン」を探し出そうとしているのだ。
ターランが目を離した隙に魔王の手下にさらわれてしまうヘン・ウェン。
魔法使いエロウィー姫の助けで魔法の剣を手に入れたターランは、森の住人ガーギやエロウィー姫、吟遊詩人フルーダーらとともに、ヘン・ウェンとブラック・コルドロンの行方を追って妖精の国に行くことに……。
これみてポイント
迫力のあるアニメーション
本作を観ていて驚いたのがヘン・ウェンがホーンド・キングの手下、グウィサント(Gwythaint、民間伝承に登場する伝説の鳥)に連れ去られるシーン。初見時、思わず声が出ました。
ヘン・ウェンの動きのリアリティ、恐怖の表情、そしてスピード感のある背景動画。
いや、怖すぎて子供泣くよ、コレ。
ターザンより前のディズニーアニメーションは絵本的な画作りをしていて立体的な動きは苦手だと思っていただけにコレは衝撃でした。
背景動画とは
CG技術が発達する前のアニメーションはカメラワークに大きな制限がありました。
白雪姫でディズニーはマルチプレーン・カメラという画期的な撮影機材を使用しましたが、出来ることはPAN、トラックアップ(TU)、トラックバック(TB)のみです。PANはカメラを横に振るカメラワーク、TUTBは被写体に対して近づいたり、遠ざかったりするカメラワークです。TUTBはズームと似ていますが、ズームは画角の変化が伴うので別物です。アニメーション撮影の場合、カメラと被写体の距離が近く、ズームがあっても変化はごく僅かなため、TUTBと一緒に扱われることが多いです。あと、PANと似たものでFollowってのもあるんですが、今回は割愛。
そんな制限があって、まともに演出が出来るかと思われるでしょう。しかし、先人たちの創意工夫によって擬似的に3次元空間を作る方法が開発されています。
- 瞬間的にカットを切り替える
- 付けPAN
- 背景のパースペクティブを意図的に変える
- 背景動画
などなど。まだ沢山あると思いますが、これらの技法を組み合わせることでのダイナミックな映像を生み出しています。
前置きが長くなりましたが、背景動画はこういった演出上の制約から生まれた技法です。
背景動画は文字通り、背景を動画として描くため作画のコストが跳ね上がります。また、動画として動かすためにはセル画に描き起こす必要があり、背景美術ほどの描き込みをすることは難しいです。
セルに背景のように描き込むこともあります。これはハーモニーという処理方法で、出崎統監督が好んで使っていました。ハーモニーは止め絵で使うことが普通ですが、ナウシカでは王蟲をハーモニーで動かすということもやっています。
背景動画は何枚も描く必要があるため、動かせる背景は必然的に描き込みが少ないものになってしまいます。押井守監督は背景動画の不自然さに不満を持っていたらしいです。
とはいえ、背景動画にはそれにしかない魅力があって、それのみで見せ場のシーンとなる力があります。
背景動画といえば、劇場版クレヨンしんちゃんですね。みんな大好きオトナ帝国ではクライマックスの階段登りは途中でクレヨンでなぐり描きしたような背景動画で心揺さぶられたことでしょう。
このカットの原画は末吉裕一郎さんですね。原画もさることながら動画マンがめちゃくちゃ頑張った!
マイベストはヘンダーランドのクライマックス。原画は湯浅政明さん。ガチの天才です。クレしんのアートワークは彼が大部分を担ったと言っても過言ではない。
近年では、CGを使うことでTVシリーズでもダイナミックなカメラワークを実現しています。進撃の巨人の立体機動なんて今の時代じゃなかったら、ずっと空をBGにしてぐるぐるカメラを回すだけになっていたかもしれません。
実はCGが最初に使われたアニメーション
本作はアニメーションにCGを組み込んだ最初の長編ディズニー アニメーション映画としても注目に値します。CGは、泡、ボート、浮かぶ光の球、大釜、映画の終わり近くに見られるリアルな炎、タランと仲間たちが使用していたボートなど、多くの特殊効果に利用されました。
後に美女と野獣のダンスシーンで3Dレイアウトを作っていましたが、ここでの経験が礎になっているはずです。
ナイン・オールドメンの正真正銘最後の作品?
ディズニー・レジェンドであるナイン・オールドメンの最後の作品はオリビアちゃんの大冒険(1986年)らしいのですが、それはコンサルタントとしての参加。
コルドロンではキャラクターデザインとして既に引退していたマーク・デイビスとミルト・カールを呼び戻しています。
で、調べても分からなかったのですが、終盤のフルーダーが魔女と交渉するシーンがミルト・カールっぽい作画なんですよね。ブランクもあって、かなり高齢だったので違うかなとも思うのですが、もし知ってる人がいたら教えてください。
書きたいことを書いていたらとりとめのない文章になってしまいました。
コルドロンは当時のディズニーの制作体制のひずみをもろに受けてしまった不運な作品です。しかし、それでもクリエイターたちは作品の質を上げるために妥協をしなかったことは映像を観れば分かります。
公開から40年近くたった今だからこそ、改めてこの作品を評価してみてはいかがでしょうか?
ちなみに、ディズニー100周年の特別短編フィルム「ワンス・アポン・ア・スタジオ」にコルドロンの主要キャラが割りと目立つ位置で登場します。ディズニーもコルドロンに対して色々と思うところがあるのでしょう。
作品概要
コルドロン | |
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The Black Cauldron | |
監督 | |
脚本 |
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製作 | ジョー・ヘイル |
製作総指揮 | ロン・ミラー |
音楽 | エルマー・バーンスタイン |
編集 |
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製作会社 |
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配給 | |
公開 | |
上映時間 | 80分 |
製作国 | ![]() |
言語 | 英語 |
興行収入 | $21,288,692[1] |
前作 | きつねと猟犬 |
次作 | オリビアちゃんの大冒険 |
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