人を寄せつけぬ自然の中で少女は生きる術を学んだ「ザリガニの鳴くところ」

今回紹介するのは「ザリガニの鳴くところ」

なんじゃ、そのタイトルと思うかもしれませんが、全世界で1500万部以上を売り上げた大ヒット小説の映画化作品です。

親に捨てられて「ザリガニの鳴くところ」と言われる湿地で育った女性が殺人事件の容疑者として逮捕されるところから物語は始まります。

事件後と事件前の回想で構成されるこの物語は、アメリカの貧困や差別問題を湿地の豊かな自然を背景に描き出していきます。重い話とは裏腹に、映し出される自然の美しさがコントラストとなり、映画をより豊かなものにしています。

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原作小説もおすすめです。父親とカイアの交流など映画版ではオミットされている部分がありますのでディテールを知りたい方はぜひ。

ザリガニの鳴くところ (ハヤカワ文庫NV)

ザリガニの鳴くところ Kindle版


あらすじ

全世界で累計1500万部を売り上げたディーリア・オーエンズの同名ミステリー小説を映画化。

ノースカロライナ州の湿地帯で、将来有望な金持ちの青年が変死体となって発見された。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で育った無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に捨てられて以来、学校へも通わずに湿地の自然から生きる術を学び、たった1人で生き抜いてきた。


リース・ウィザースプーンが製作を手がけ、ドラマ「ふつうの人々」で注目を集めたデイジー・エドガー=ジョーンズが主演を務めた。音楽は「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」でアカデミー作曲賞を受賞したマイケル・ダナ。テイラー・スウィフトが本作のためのオリジナルソングを書き下ろしたことでも話題を集めた。


これみてポイント

他人に翻弄されるカイアの人生

カイアは幼くして天涯孤独となった。

カイアの父親は戦争で足を負傷し、PTSD(当時は認知されていなかった)を患っていた。酒におぼれる父親はことあるごとに家族に対してひどい暴力をふるっている。

最初に母親が家出をし、やがて4人の兄姉たちも次々と家を出ていった。

家に残ったのはアルコール中毒の父親とカイアのみ。


原作では、その後、徐々に父親との関係を築いていき、暴力を振るわれることもなくなり、一緒に町に出て食事をすることもあったりと少しだけ人生が明るくなり始めたが、ある出来事により父親まで失踪する。


以来、カイアはひとりで生きていくこととなるが、人恋しい気持ちと人に裏切られたくないというアンビバレントな感情を抱えたまま成長していくことになる。しかし、これが事件に巻き込まれる原因となるのだった。


湿地にしか行き場がなかったカラードとホワイトトラッシュ

本作の舞台は1950~1960年代のノースカロライナ州。当時、この湿地には訳ありの人々が多く逃げ込んできた。

人が住むには適さないこの場所にはカラード(有色人種)とホワイトトラッシュ(貧しい白人)ばかりが住んでいた。そして、湿地に住む人たちは差別や偏見の目で見られていた。

※white trushはpoor whiteよりも犯罪予備軍というニュアンスが強い。


家族に見放されたカイアの救いは湿地で雑貨店を営むジャンピンとメイベルの夫妻であった。

1950~1960年代のアメリカ南部といえば、公民権運動の真っただ中。KKKも復活したりと、黒人に対する風当たりが非常に強い時代である。


映画の中では触れられないが、原作ではジャンピンが白人の子供たちに石を投げつけられるという描写もあり、夫妻の生活も苦しいことが想像できる。

他人に対して施しが出来るほどの余裕はないはずだが、そんな中、カイアに手を差し伸べたのは夫妻のみであった。


青年の死は事故か、殺人か

カイアの弁護をするのは既に引退した弁護士のトム・ミルトン。

過去に湿地の少女に関する様々なうわさを聞いていたが、積極的に手を差し伸べるようなことはしてこなかった。しかし、チェイス殺害の容疑者として「湿地の少女」が逮捕されたと聞いてカイアの弁護を買って出た。


これまでの人生で多くの人々に裏切られてきたカイアはトムにも心を開かずに黙秘を続けるが、検察側はカイアがチェイスを殺したという状況証拠を並べてくる。そして陪審員は全員町の人間。カイアにとってはアウェー中のアウェー。


トムは終始、知性的で実にかっこいい。そして、最後、陪審員たちに向かって話しかける彼の言葉に心が震える。かっこいいおじいちゃん最高ですよ。


作品概要

ザリガニの鳴くところ
Where the Crawdads Sing
監督オリヴィア・ニューマン
脚本ルーシー・アリバー
原作ディーリア・オーウェンズ
『ザリガニの鳴くところ』(早川書房
製作リース・ウィザースプーン
ローレン・ノイスタッター
製作総指揮ベッツィー・ダンバリー
ロンダ・フェア
ジョン・ウー
出演者デイジー・エドガー=ジョーンズ
テイラー・ジョン・スミス
ハリス・ディキンソン
マイケル・ハイアット
音楽マイケル・ダナ
撮影ポリー・モーガン
編集アラン・エドワード・ベル
製作会社コロンビア ピクチャーズ
3000ピクチャーズ
ハロー・サンシャイン
ハーパーコリンズ・パブリッシャーズ
配給アメリカ合衆国の旗 ソニー・ピクチャーズ リリーシング
日本の旗 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公開アメリカ合衆国の旗 2022年7月15日
日本の旗 2022年11月18日
上映時間126分
製作国アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語英語
製作費$24,000,000[1]
興行収入世界の旗 $97,725,308[1]
日本の旗 1億6500万円[2]

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